四年生の「普通」からの『逆境経営』

先週の伝統の一戦から一週間。提出のあったラグビーノートは過去最多の18冊。コーチだけでなく生徒も新たな気持ちでやり直していくという意思がビンビン伝わってくる内容でした。生徒それぞれに何らかの気づきが生まれた試合だったようです。「基本が大事」とはK31、ブレイクダウンで相手と味方の数の組み合わせを20通り近く分類し、どんな数の時は入るのか、あるいは捨てるのかを分析してみせたE28など、今日が新たなスタートラインだという気持ちも沢山伺えました。

怪我で戦列を離れているK20も仲間の試合を観ながら、色々なコーチが言うことを自分なりに咀嚼して、これからは、「礼に始まり礼に終わるようにしたい」と書いていました。相手への感謝の気持ちが大事なことがわかったとのこと。この気づきは偶然コーチが機会があればと思い、バインダーに挟んでいた日経新聞の過去のスポーツコラムの内容と一致したので、皆に読んで聞かせました。

スポーツを見ていて久々に日本人として誇らしい気持ちにさせてくれたのが、テニスの全米オープンで準優勝した錦織圭選手だ。(中略)特に感銘を受けたのが決勝で敗れた直後のインタビューだ。まず最初にチリッチ選手へ初優勝の祝辞を贈り、支えてくれるスタッフへの感謝を述べた。世界中が注目する大舞台で完敗した悔しさや屈辱感に包まれる中で、相手の強さをたたえる態度は立派だった。

 あらゆる競技で日本選手の敗戦の弁にありがちなのは、「自分のプレーができなかった」「力を出し切れなかった」といった内容。頭にあるのは自分のことばかりで、「勝てた試合だった」とミスを悔いるケースが多い一方、勝者を敬う言葉はなかなか出てこない。

 本来、「礼に始まり礼に終わる」という武道の精神は、錦織選手のような態度を指している。「素晴らしい試合をありがとう」という感謝の気持ちで、礼とともに悔しさも水に流す。

 そんなセルフコントロールはスポーツにおいてとても大切で、舞台を降りるまで続けるべきものだ。(中略)ぜひ他のアスリートたちも見習ってほしい。(コラム「スポートピア」山口香筑波大大学院准教授)

今日はいつものように試合をレビューすることから始めましたが、今回は多くの課題が見つかったこともあり、出席者30人全員が理解できるように実際のフィールドを使って、チームそれぞれ7人を配置して振り返ってみました。

修正すべき課題のうち、今日できたのは、自陣トライライン手前スクラムからのキック選択の判断と、キックを選択した場合の蹴り込むべき場所と、スクラムあるいはブレイクダウンからのフォワードのディフェンス方法の2点でした。

キックについて、コーチは味方が数的優位にあって、パスやランで抜けられると判断できるのであればキックを選択すべきでないと思います。それがたとえ自陣深くであってもです。ラグビーの醍醐味は広いフィールドを自らの足で駆け抜け、ボールを取られないようにいちばんボールを奪われるリスクの少ない仲間に繋いでいくことだと思っています。その判断をせずして、ゴール前=キックと判断してしまうプレーヤーにはなって欲しくありません。これから場合によっては、キック禁止の試合もやってみるかもしれません。

スクラムからフォワード3人がブレイク(スクラム終了)から頭をあげてどこに向かえばよいかについては教えていませんでした。来年9人制となれば、各プレーヤーの役割も細分化されます。それに早くから慣れさせる意味で、ディフェンスコースを少しずつ習得してもらおうと思います。

スクラムからボールが相手に出る局面では、ボールの出るサイド(右か左か)のフロントロー(スクラム前3人)の外側の一人(プロップ)がチャンネル1(フライハーフとインサイドセンター)の隙間を埋めるように鋭角に飛び出し、フッカーはチャンネル2(インサイドセンターとアウトサイドセンターの隙間を埋めるように、反対側のフロントロー(プロップ)は正面よりショートサイドをディフェンスすることをスローで練習しながらコース取りを覚えてもらいました。

ブレイクダウンからボールが相手に出る局面では、チャンネル0(ゼロ)と呼ばれるボールが出る所からフライハーフまでの間を特に注意して守ることが最も重要なこと、E28がいみじくも分析した捨てるべきブレイクダウンかの見極めを早くして、チャンネル0を門で塞ぐように立つことを考えられるプレーヤーになってほしいことを伝えました。これまでの試合では、おしくらまんじゅうをするのがフォワードという勘違いから意味もなくモールやラックに参加して、簡単にサイドを突かれてトライされることが多かったので、これからの練習でチャンネル0を抜かれるトライは減少させたいものです。

こう難しい説明をしていると中には他見やおしゃべりが始まるのが常ですが、今日の生徒の目はいつもと違います。誰もふざけるものなく、コーチの説明を聞いていたようでした。

表題の本の作者桜井博志氏は、山口県の山間部の小規模な酒蔵を親から継いで、幾度の経営危機を乗り越えて「獺祭(だっさい)」という海外にまで名を馳せた地酒を生み出したことで事業を好転させた人です。

死のうとまで考えたほどの地元同業者の中で「圧倒的な負け」であったことが、最終的には会社を救ってくれたと邂逅されています。そこにどんな発想の転換があったかというと、「ある(できている)酒を売る」という「普通」の基本スタンスを捨て、「よい酒を造る」という視点に変えたことだと言います。小規模な仕込みでないと高品質が保ちにくい大吟醸なら、小さな酒蔵であることを強みにできる。桜井氏は、勇気をもって、「普通」を捨てる決断をしたのだそうです。

「普通」はすなわち「負け」である

S14父さんのフレーズではないですが、この本を読んでさらに獺祭ファンになったのは申すまでもありません。

来月、コーチが集まって今後の運営について討議しますが、わが四年生もこれから目指すべきは、パスが長くてランニングスペースがいっぱいあるようなラグビーと思っています。誰が観ても「美しい」「鳥肌が立つ」ようなわかりやすく、感動を与えるラグビーこそが四年生があと2年の間に目指す頂ではないかと思った週末でした。