三年生を見守る『永遠の0(ゼロ)』

グラウンドの利用時間の都合上、いつもより1時間半早い練習開始時間でしたが、三年生29人は一人も寝坊せずにやって来ました。2人の欠席者のうちH7は、いつも練習や試合に付き添われていたお祖父様が急逝されたため忌引。お父様が主任指導員として担当学年のコーチングに余念がなく、なかなか一人息子の様子を看られない中、濃い目のサングラスの向こうから代わりにH7のプレーをじっとご覧になられていたお祖父様の在りし日のお姿がタイガージャージとともに目に鮮やかに浮かびます。

そんなお祖父様がお生まれになられたのは太平洋戦争開戦前夜。世は皇紀2600年を祝う国威発揚の記念行事に沸き返るゼロの時代(この年、正式採用された艦上戦闘機は2600年の末尾数字をとって零式、後に「ゼロ戦」と呼ばれた)。ほどなく訪れた激動の戦中、戦後を逞しく生き抜き、物資、食料不足もものかは、ラグビーと出会い、社会人以降も長く現役を貫き、大阪ラグビー協会委員としてラグビーの普及に尽力されてこられた偉大なラガーマンの歩んだ道は波乱万丈そのもの。生前ご本人から幾度となくお聞かせいただいた「武勇伝」と好々爺然としたご本人とのギャップにどこまでが本当の話なのかと思ったものです。H7とその仲間が六年生になって大活躍する姿をお見せできない永遠の別れとなってしまいましたが、故人はきっと天空のどこか、永遠のゼロの世界からやさしい眼差しでスクールの生徒たちの様子を見守ってくださることでしょう。

今日の練習はこれまでの試合も含め、生徒たちとの出会いから数えて100回を超えました。思えば遠くへ来たもので、この先どこまでゆくのやらと口ずさみたくなる折り返し地点に差し掛かったマラソン走者の感があります。先週の五年生との練習試合の感想を聞けば、「面白かった」(T2)と言ってのける猛者ぞろいの生徒たち。「もう一回頼んで来ようか?」と尋ねれば、「もうええわ」(R15。試合で1点取ったことが嬉しかったとラグビーノートに書いていました)と本音を覗かせる正直な一面も。「じゃあ、今度四年生と勝負したい人?」と聞けば、全員が迷わず手を挙げてやる気満々の様子。異次元ラグビーに触れたことが早くも「インターチェンジ効果」(高速道路からインターチェンジに入る時、高速道路でのスピードに慣れているため、スピードメーターが示す速度よりも体感では遅く感じること)として現れのか、なんとも心強い限りです。

ラグビーノートもコーチのコメントが書ききれないほど提出数が急増中です。高槻戦勝利の立役者の一人S1は毎週、自分に課題を与えて取り組もうとしています。R21は五年生との試合でできたこと、できなかったことを手帳サイズのノートに事細かに記入しており、コーチのコメントと花まるを横にいて確認してから自主練を始めていました。H13もマインドマップから自分の弱いところを改善しようという姿勢が見えてきます。E28も先週からノートを連続提出中です。

全体練習では、4人ごと7つのグリッドに分散し、プレッシャー下でのパス練習を行いました。パススキルはかなり向上しています。右利きのJ22がなぜ左手からのスパイラルパスが伸びるようになったのか、皆密かに特訓をしているようです。K20もドロップキックを自主練で行った際、蹴る方向について気づきがあったことをノートに説明図付きで記載していました。

パスの次は二人一組でタックルが素早く低く、正しく踏み出せるジュビロ式トレーニングをやってみました。まず、亀になった生徒の上を真横に10回ジャンプし交替。次に、二人が立った状態で2メートル間隔で向き合い、片方が相手の90度上げた脚の下をくぐる(前後各1回)練習を行いました。キーファクターは、内側の足で相手の両脚を底辺とする正三角形の頂点にまっすぐ踏み込み、素早く低くなり、両足を揃えずに送り足を大きく前に出して相手の上げた脚の下をくぐること。最後に、うつ伏せ状態から素早く起き上がってタックルの姿勢で相手を持ち上げる練習です。ここでも踏み出し足が三角形の頂点になるように(三角形を描いていた生徒もいました)意識し、胸を相手の太腿に密着させ、膝裏にバインドし軽く持ち上げます。この3つの動作がなんとかできたところで、連続1セットをやってみました。初めてですので、流れるようにはできません。まずは、3つの練習が素早くできるようにならないとセットを無理にやっても意味がないようです。合宿までにこの基本練習を毎回行います。練習の名前は「うさぎと亀」。最初は意識しながら行い、繰り返していくうちに、無意識に行えるようになるのが目標です。踏み込みと送り足というラガールに教わったタックルの要諦が何事にも積極的な三年生に身につくか。格闘家のワンポイントレッスンもきっと有効でしょう。まず「あひる歩き」のレッスンからお願いしようと思います。

必要なのは「練習」だ━━━たんなるくり返しではなく、本物の「練習」。マイケル・ジョーダンは言った。「一日8時間シュートの練習はできる。でもやり方がまちがっていたら、まちがったシュートがうまくなるだけだ。」練習で完璧(パーフェクト)になるのではなく永遠(パーマネント)になってしまうわけだ。(『アイデアのちから』の作者「ダン・ハース」)

次回は、結果を出すための練習がテーマです。