二年生に向け見えて来た攻撃の原則「第3の案」

今日は雨の予報をかいくぐり、一年生はぎりぎり2時間、気持ちの籠った練習ができました。グランドには早朝からキックの練習をしているH9が一人いました。H9はサッカーも習っていてボールをキックするときのタッチが柔らかく、コーチがアドバイスできることは、キックのミーティングポイントを目の高さくらい高く、蹴った後、ボールを追わず足元を見ておくくらいです。それから徐々に一年生が集結し、将来のためのキック練習に熱心に取り組んでいました。こうしてキーボードを叩いているコーチの耳元には生徒達全員(21名)が叫んだ「パス!パス!」の声が今もこだましています。

ウォーミングアップのじゃんけん足し算・引き算(「引き算はできない」と言っていたK16がいちばん暗算が速かったのは何故?)で頭と身体を柔らかくしたところで、生徒を集め、攻撃の原則について考えて貰いました。その前に、S6が先週の試合について描いたマインドマップを持って来てくれましたので、彼から、先週できたこと、できなかったこと、感じたことを発表して貰いました。彼はちゃんと他のチームの試合も見て、自分達のチームとの違い(チームManatoが下のボールに速く反応していたこと)について気付きを書いていました。コーチに言われなくても、自分で試合のことを分析する力が一年生には身について来ているようです。

先週の練習試合でいろいろなタイプの攻撃を仕掛けた4人を前に呼んで、何故そうしたかを聞きました。まず、縦に突進してトライを稼いだR15は「真直ぐ行って抜けると思った」、ペナルティからすかさず真横に走ったH7は「相手がいなかった」、後ろに下がったH13は「前の相手から離れられた」、そして最後に初キャプテンを経験して逞しくなった感のあるK20は斜めに走った理由を「隙間があいていた」とそれぞれ理由を持って行動していたことがわかりました。

コーチは生徒達を前に、フィールド上に相手5人と味方5人が向き合っている図を示し、もしR15が真直ぐ縦に攻めたら相手はどういう動きをするか尋ねたところ、相手がR15に「寄ってきた」との回答。では、H7の真横走りに相手はどう反応したか。多くの生徒が「横に広がった」と即答してくれました。では、真直ぐに攻めた後はどう攻撃する?と尋ねると、「横にパスで繋ぐ」との声が返ってきました。いやはや、大人でもあやふやになりがちな攻撃の原則を早くも理解し始めたようです。

早速、攻撃の原則を実際にゲームの中で試してみました。3つのコートをつくり、それぞれゴールラインの長さを5M、10M、15Mとしました。3つのコートそれぞれで、アタック4対ディフェンス3でゲームをしました。最初はボールなしの「エア・ラグビー」からです。コーチから受け取った架空のボールを受けた生徒が縦に突っ込み、モール→リップ→パスという展開をボールなしで継続する練習です。このゲームでは生徒が必ず「パス!」の声と「俺が持ってる!」、「俺が取った」といった明確な声で進行するルールです。ちゃんとできるか不安でしたが、大阪芸人のはしくれ一年生はこういう「芸」もピカ一です。大声が出るわ出るわ。

広い・中くらい・狭いコートでそれぞれエア・ラグビーを行ったところで本当のボールを入れてやってみました。なんと、エアの時以上に声が出るではないですか。声が出ると、気持ちも高ってきます。もう、コーチも止められないくらいゲームに興奮して激しい試合となりました。キャプテン志願のY5も途中で玉の涙をこぼしながらタックルしていました。攻守でいちばん目立った生徒はR15でした。S1も密集で何度もボールを奪い取りトライに繋げていました。闘志を内に秘めたY17が初めて大きな声を出したのにはびっくりです。Y3、H7、A11、K12、R21、R27も自分達もボールを持ちたいと言う目をしていました。コーチが指示することもなく自然と味方同士でハーフタイムに円陣を組み長い時間作戦を話し合っている姿も素晴らしい光景でした。なでしこジャパンが標榜する「攻守にアクションする」姿勢が鮮明に出た内容でした。

チームの気持ちが繋がったところで、初めてのランパスを最後に行いました。後ろに投げながら前進するというラグビーのパラドックスをいきなり体現するのは難しいため、スローフォワードランパスを行いました。ボールを持っている生徒を隣の人が抜いたらパスをする方がスムーズです。ノッコンはどうしても起きますが、初めてとは思えない連携ぶりでした。

勝利至上主義のラグビーは、勝つか負けるかという二者択一の考え方であり、チームの中ではレギュラー(正選手)かイレギュラー(補欠)という二者択一の発想が支配する世界です。しかし、今一年生が目指すラグビーは、二者択一を答えとしない「第3の案」としてのシナジー(相乗効果)を生み出すチームとしてのラグビーです。

シナジー(チームワーク)を持っているチームは、相手チームの方が個々の選手の能力では優っていてもスタンドプレイヤーばかりでシナジーのないチームであれば勝てるでしょう。優れたチームのパフォーマンスは、選手個々人の能力の総和をはるかに超えるからです。子供たちが秘めた創造力は計り知れないほど大きく、それらが一つになったときには、足し算から掛け算あるいは乗数の世界になるかもしれません。そんな思いを抱いた今日の練習でした。