一年生とミラーの法則


先週は合宿後の初練習に参加できませんでしたので、今日の練習はとても心待ちにしていました。合宿後、どれだけ生徒に変化が現れたかを見たいというのがその理由ですが、やはり大きな変化が見られました。グランドに行ったら皆何やらキックなどの練習をしているではないですか!


コーチ自身サッカー少年だった経験からキック好きで、フォワードなのにプレースキックをやったり、試合中キックをする癖が今もって治りません。ラグビーはボールの所有権を持ち続けるから面白いのであって、小学生にはキック戦法は端から考えていないのですが、遠い将来のために今から蹴ることを覚えることは大事です。小学生になって神経系発達が顕著になる時期を迎える生徒に必要なことは、走る・投げる・跳ぶ・蹴る・泳ぐといった基本動作をたくさん経験しておくことだと思っています。傍からご覧になられると、もっと根性系の練習で息子をこってり絞って欲しいというご意見もあろうかと思いますが、ここはぐっと堪えて、様々なメニューをこなしながら神経系回路をどんどん繋いでおきたいところです。一年生でグランドに自転車で来ている生徒もいるように、自転車に乗るという回路が一度できあがれば、何十年のブランクがあっても自転車にすぐ乗れます。コーチのへぼキックも小学生一年生から雪の中の練習で回路が繋がったわけです。脳と筋肉を結ぶ神経回路をひとつでも多く、今しかない時期に繋いでおきたい。それが今コーチの唯一教えられることだと思っています。


変化は他にも見られました。今までいちばん後ろに整列していた生徒がいちばん前に真っ先に整列するではないですか。見上げる瞳は「今日は何やるの?」と言わんばかりにぎらぎらしていました。合宿の感想文も一年生とは思えないラグビーのコアな部分に触れているコメントが多く、我が家に帰りにんまりして何度も読み返しました。その他にも、ご自宅でのペットボトルを使ったトレーニングの成果が表れている生徒もいました。今日からラダートレーニングに加えて、ミニハードルトレーニングを取り入れました。一年生ですと普通、ハードルに足を取られトレーニングにならないのですが、わが一年生はうまく跳び越える生徒が多く驚きました。


練習前に全員(17人+新人2人入部の19人出席、欠席6名)を集め、夏合宿のレビュー(自分が成長した、変わったと思ったかどうかを聞きました。変わったと思うという生徒が多かった)と、これまでの体力測定の成長度合いをグラフにしたものを新人以外に手渡し、説明しました。


体力測定のグラフは、30メートル走、40メートルベースランニング、30メートルジグザグ走の3種目です。グラフは学年の生徒間の比較ではなく、生徒個人が世界のトップアスリートと比べてどうかが一目でわかる(「見える化」)ようにしました。今世界陸上で話題のボルトや福島千里、メジャーリーガーイチローのベースランニングの時速と比べてどうかを表しましたが、あまりにも比較するには偉大すぎる嫌いもありますので、今の一年生のスピードで既に勝っている世界水泳選手のスピード、大阪のおばちゃん自転車速度(一般には10キロ/時と言われている)も入れてイメージしやすくしました。


もうひとつの大事な話として、来月からシーズンインするにあたり、茨木との定期戦など公式試合をテストマッチと位置づけ、これまで練習してきたことがどこまでできたかを試すことを目的とし、そのための目標としてチームの勝利を掲げました。これから試合が次々とあります。夏合宿の練習試合で生徒達が多くのことを学んだように、これからの試合からも何かを学んで欲しいものです。


グランドに来るまでは、今日から実戦的な練習を考えていましたが、今日から体験の生徒2名が入校することになりましたので、合宿に行けなかったもう一人と一緒に、アイスブレーキングと歓迎の意味を込めて、「鯉の滝登り」の儀式を行いました。合宿参加組が2列で向き合い、向き合った相手の腕をつかみます。その上にウルトラマンの飛行スタイルをした新人をひとりずつ載せ、下流から上流へ運びました。重くて投げだすかなと思いきや、最後まで皆頑張りました。これで、気持ちはかなり氷解したようでしたが、さらに歓迎キックベースを行いました。キックの練習の成果か、守備のいない場所にキックをしたり、スクリューがかかっていたりと腕(足)を上げてきたのがわかります。キックが伸びないと思われている生徒の番では、守備が全員内野に集まったりと、一年生ながら色々と考えているようです。


この思考の中枢である脳は3つの本能しかないという学者もいます。①生きたい、②知りたい、③仲良くなりたいという3つの本能だそうです。③の仲良くなりたいという本能は、鯉の滝登りとキックベースを触媒として新人と既往メンバーを繋げることができたようです。この仲良くなりたいという本能に関して、「ミラーの法則」という考え方があります。人に対して抱いた感情や態度は、そのまま自分にはね返ってくる、という心理学でいわれる法則です。イチローやタイガーウッズといったスーパースターは敵であっても素晴らしいプレーを絶賛したり、ゴルフで競う敵にカップインしてくれと祈るそうです。相手が強くあって欲しいと思うことで、自分も強くなり、さらに高いレベルで競い合うことができると考えるのでしょう。一年生にも将来敵の蹴る逆転のゴールを「入れ!」と祈るくらいのラガーパーソンに成長して欲しいものです。人類最速男ボルトの心境はどうだったのか。後ろから追いかけてくる強い敵に対して「フライングしろ!」と祈ったのか、こればかりは本人しか知らない心のうちですね。


このミラーの法則ではないですが、一年生は今、攻撃側の動きを鏡のように真似し、逆に防御側の動きとは反対の動きでスペースをつく練習を行っています。うまいプレーヤーの動きを真似て自分もうまくなってくれるようなシナジーも期待できそうです。