三年生が『限界を突破する5つのセオリー』

4日間の長い夏合宿が無事終了しました。特に今年は31人(うち今年入校の5人は初)参加という大人数の団体行動、かつ、個性派揃いの生徒たちですので、チームとしてちゃんと纏まるのかとても不安でした。フル参加予定だった期待のMKTコーチ一家の災厄(家族唯一の光、二年生のM4ちゃんは三年生相手に堂々の2トライ奪取および気迫のタックルが一家の何よりの朗報になったことでしょう)で不安は増幅されました。FJIコーチのチーム分けのアイデアなかりせば、大変なことになっていたかもしれませんが、5つのチームに分割したことによって、各チームのメンバー全員にそれぞれ与えられた役割(チームリーダー、サブリーダー、風呂リーダー、食事リーダー、整理整頓リーダー、プレゼンリーダー)を果たそうとする自主性が芽生え、最小単位のチームビルディングができました。
チームビルディングのメリットは、①バラバラなエネルギーのベクトルが同じ方向に向くようになり、大きな力が発揮されること、②各メンバーの貢献意欲や仲間に認められたいという承認欲求が発現し、メンバー1人ひとりのやる気、モチベーションが高まること、③メンバー同士の相乗効果(シナジー)が発揮できるようになることが考えられます。今回の合宿では、まさにこれらのメリット通りの効果が認められました。チームが活性化したこと以外にリーダーになった経験の少ないと思われる生徒が、4日間でリーダーシップを少しづつ身に着け、頼もしいまでに成長したことが何よりの収穫でした。今回は、縁の下の力持ちタイプ、元々チームを引っ張ろうとするタイプ、女子、ラグビー経験は少ないものの、ひとたびリーダーになると力を発揮しそうなタイプを基準にチームリーダー、サブリーダーを選びましたが、どのリーダーも嬉しくなるくらいの変化を見せてくれました。
R15(サブリーダー)はチームリーダーが女子で宿が別になっていたため、実質チームリーダーの役目をこなしただけでなく、往路のバスが到着したところで車内のごみを集めたり、食事後の汚れたテーブルを隅々まで丁寧に拭いて、整理整頓リーダーをサポートする自発的な行動にコーチ全員が感銘を受けました(Man of the Team play受賞)。S1(サブリーダー)は、チームリーダーの腹痛による戦線離脱の穴をよく埋めただけでなく、新しい戦術練習の動き方をチームメイトに自信をもって説明している姿は一年前と全く違う大きな変化でした(最も成長が顕著だった生徒を賞するMan of the Camp受賞)。このチーム(チームエアー:S1、Y5、H7、T18、R24、K27)はメンバーの纏まりがよく取れており、チーム最優秀賞を受賞しました。J22(整理整頓リーダー)は背の高さを生かして、毎朝チームのメンバーが畳んだ布団をせっせと押入れの上段に収納した献身的な行動も目を見張るものがありました。その影響か、全生徒が就寝前にコーチに言われなくても自分たちで布団をきちんと敷いていたことも昨年とは違う大きな変化でした。
5チームが統合した学年全体の成果は、四年生に3戦全勝(生徒自身が打ち立てた10点差という高い目標も合計でクリアー)、急成長中の二年生にはあわや敗北というピンチをラストワンプレーで同点で凌ぐ苦しい初戦に続く最終日の試合では、ラガールキャプテンK16の身体を張ったプレーに奮起した他のメンバーが上級生の余裕ある落ち着いたプレーで何とか面目を保つことができました。全員がタックルを覚えて帰るという目標については、完璧とは言えないまでも今まで相手をホールドまでしかできなかったM23が四年生相手に練習通りのタックルができたことが物語る通り、タックルの立ち位置、アップの仕方、近づき方、コンタクト後の足の運びに変化が表れ始めました。
5チームの風変わりな名称の由来は、生まれながら才能に恵まれなくても、誰でも身に付けられる効果的な思考術について書かれた表題の書籍にある学習の五大元素から命名しました。古典的四大元素とは、土(アース)、火(ファイアー)、空気(エアー)、水(ウォーター)。この本の著者(大学教官)は、これらの元素と効果的な思考を次のように結びつけることにより、思考のテクニックを簡単に思い出してすぐに応用できるようにしています。
土 ― 深く理解する
火 ― 間違ってみる
空気 ― 問う
水 ― 思考の流れを追う
これらの元素(戦略)をマスターすれば、誰でも必ず変われるということで、上記4つの不変の物質とは真逆の「変化」という第五番目の特別な元素が得られるというものです。
チームアースの腰高プレーヤーJ22が課題のタックル完成まであと少しのところまで迫ったのは、タックルという複雑な問題に正面切って挑むのはやめ、まずは簡単な概念を深く理解したことが、タックルに関する知識の空白部を見極めて、それをかなりの部分埋めることに繋がったという「土」の好例でしょう。
チームファイアーのルーキーT30がラグビーのルールがほとんどわからないながらも、持ち前のチャレンジ精神で果敢に挑戦し、スローフォワードやオフサイドの反則を何度もとられながら、理解不足の箇所に気づき、クリエイティブな解決策を見つけようとした事例が「火」にあてはまります。
チームエアーのS1は「どうやったらもっとうまく新しい戦術ができるようになるだろうか」と前向きに考え、チームメイトに思考を促した場面が練習中に見られたことが「空気」の好例でしょう。
チームウォーターのK20はラグビーノートを欠かすことなく続けていますが、彼は過去を振り返って思考の原点を探り、将来を見て思考の行方を見極めようとしています。入宿のタイミングで三年生全員を大部屋に集め、オリエンテーリングをした中で、ラグビーノートは、「宝の山を示す地図だよ」と説明しました。ノートを欠かさずつけることで、自分のこれまでたどってきた道とこれから進むべき道を明らかにしてくれると考えることで、宝探しのワクワク感が得られること請け合いです。これなどはまさに「水」の好例でしょう。このコーチ日記も自分自身、これからやって来る三年生の明るい未来にワクワクしながら書いています。
そして最後に、チームチェンジのM23は昨年入校したばかりであり、幼年からスタートしている生徒とはスキル、経験値で大きな開きがあることは否めません。彼もきっとそのことに不安やストレスを感じていると思います。そんな不安定な立ち位置から「上手な生徒ならどうやるだろうか」と具体的に想像することで彼は大きく変化するきっかけを作ったのかもしれません。四年生戦で見せた完璧なタックル(二回目は失敗)やディフェンス網をかいくぐって飛び込んだトライはその変化の兆しかもしれません。同じチームのルーキーE28も今回の合宿でやっと同じチーム5人の名前を覚えたと嬉しそうに話してくれました。他のスクールから方言も生活環境も異なる世界に変わり、彼自身も変化しなければならず、その環境変化から最大限のものを引き出すことで彼の今後の飛躍的成長が期待されます。
昨年の合宿で四年生に完敗した蜂のムサシたちが、小さなチームを立ち上げて効果的な思考の中から限界を突破して見せた想い出深い今年の合宿となりました。さあ、あと2回の合宿でいよいよ六年生に進級です。彼らのハラハラドキドキ旅日記をこれからも綴ってゆこうと思います。最高の舞台設定をしてくださった保護者の方々に心より御礼申し上げます。
どんな映画、演劇、文学作品においても、ほんとうの主役を見つける秘訣とは、物語の最後にもっとも変化したのがだれであるかを見極めることだ」(『限界を突破する5つのセオリー』エドワード・B・バーガー他著)