高い目標を見据える二年生たちの「自分を変える教室」

今年一年も早いもので師走を迎えました。昨日と違い冷たい北風もない中、二年生21人(5名欠席)が一時間前からぞろぞろ集まりキックベースで一汗かきました。キック力はものすごく伸び、外野をはるかに超えるキックの連続でしたが、フライのキャッチはバンザイしているだけで、落下地点に素早く走ってからキャッチングする生徒が少ないのは、草野球をしていない今時の小学生なんでしょうか。

広いグランドを2周した後、生徒を集め、先週の大会で全員がマンオブザマッチで表彰されたことを讃えました。低学年で覚えることはこれで全員履修済。これからは、いよいよ三年生になるという自覚を持ってラグビーに取り組むにはどうすべきかを考えて貰いました。敬虔な仏教徒の多いタイでは満7歳から14歳の期間、見習い僧(沙弥)としてお寺で厳しい修行をする子供たちがいます。二年生もこれから中学三年生までの同じ期間、自分自身を厳しく律することで心身ともに逞しいラガーマン(ウーマン)になれるでしょう。そのためには、これまでと同じようにおうちの人やコーチに言われるままではなく、自分のことは自分で考えてできるように自分を変えていかないといけません。ペンギンから意志を持った人間への変身でしょうか。生徒には「今から5分間、人間のお話をするから、ペンギンのことを考えないように!」と言明しておきました。

スタンフォード大学で人気の高い心理学者ケリー・マクゴニガルは近著で、人間とは何かを定義するもの、つまり、ペンギンと人間を決定的に分ける能力は「意志力」であると看破しています。人類が歴史を重ねるにつれ、人間社会はますます複雑になり、それに合わせて自己をコントロールする方法を考えた結果、人間のみが現在のような進化をとげたのだと。この方法こそが意志力であり、動物的な衝動を制御するための力なのだそうです。意志力とはつまり、自分にとっての大事なモチベーションとしての「望む力」、そのモチベーション維持のために先延ばしせず実行したいと思っていることを「やる力」、そして、反対にどうしてもやめられない習慣を「やらない力」という3つの力を駆使して目標を達成する力のこと。

こんな難しい話は生徒にはせず、3つの力について具体的な例をあげて貰いました。「将来なりたいと思っている目標は?」から質問すると、S10から「ラグビー選手になる!」とおそらくトップリーグか昨日対抗戦初優勝した筑波大学で活躍する自分をイメージしたのでしょうか、即答が返ってきました。

では、「その目標を達成するために毎日やらないといけないことは?」の質問にも、S14が「NZ(オールブラックス)のビデオを毎日観る!」と早稲田大学合格間違いなし(?)の模範回答。

反対に「おうちでの生活でどうしてもやめられないことは?」の質問には期待通り、珍回答続出でした。「パパの観るテレビ(Y3)」、「友達が急に家に遊びに来るのがうざい(H13)」、「犬の糞が臭う(Y5)」、そして関係者以外は意味不明の「りく(弟)が邪魔(R15)」。5分前に生徒にペンギンを考えることを「やらない」ように指示したことと関係しますが、人間の脳は「考えるな」と言われたことを実行してしまうそうです。太りそうな食べ物を禁じることでますます甘いものが食べたくなるダイエットがよい例です(コーチも20キロ減からすっかりリバウンド)。ですので、「やらないこと」はあまり意識しすぎないことが肝心です。もしかすると、今お茶の間でペンギンのことが浮かんでは消えている生徒がいるかもしれません。

ということで来週から23日最終日の3回の練習で、生徒全員に来年一年間毎日やることを発表して貰います。今から発表したくてうずうずしている生徒もいました。来週は1~8番まで発表です。よろしくお願いします。

今日の練習では、ゲームでの局面を想定した中でのラン(独走と追走)とパスのタイミングを掴む練習を行いました。意志力を土台に経験値を高めた判断力を積み上げていくワークショップ(体験型講座)の開講です。ボールを持って独走するときの走力が光ったR24や、パスを貰うタイミングに離れている位置から素早くパサーに近寄るカットインが一回のコーチの説明で出来てしまうT2など、生徒の成長が感じられました。

コンタクト練習では、4色のビブスチーム毎に、5・6人の縦に長く強いモールを作る品評会を行いました。コーチと保護者にお手伝いいただき、コンタクトバッグを台にして、モール練習を行いました。最初はぐちゃっと潰れたような短いモールでしたが、コツを掴むと徐々に縦長の蛇の組立模型のようなモールが完成。品評会では最後100点が出ました。モール攻撃を得意とする東海大と勝負できそうな完成度でした。

自分の成長のためだけでなく、小さな26人のコミュニティに属し、協力し、長期的な関係を維持するためにもコミュニティのルール(相手のことを尊重し、思いやること)を守ろうと自分をコントロールする「意志力」は重要です。

オールブラックスジュニアに勝ったときのジャパンメンバーであられた横井氏には以前酒席でラグビー論を拝聴させていただいたことがありますが、同氏はブログの中で昨今の大学ラグビーを「自滅ゲームのオンパレード」と憂いつつ若いプレーヤーが、パス攻撃をミスなく出来るようにするには、どういうの準備とスキルの準備が必要か?をお書きになられていますので引用させていただきます。

・・・まずは、パスをする方は「いつも味方に捕り易い、やさしいパスをしようと思っているか?」「自分の身を挺してでも、次の味方に有利なボールをつなごうとしているか」「味方のサポーターが前の位置にいれば、スローフォワードをやめようとしているか」「味方の声や要求に合致したパスをしようとしているか」など、
またパスを受ける方は「自分は、パスをする味方が自分を認識できるようにをかけているか」「パスを受ける位置がパスをする味方のタイミングも考え、スローフォワードにならないようにしているか」「パサーのボールが受けにくいところへ来れば、無理に手を出そうとしていないか」「本当に、受けにくいボールなら、自分が止まってでも、或いはタックルされるのも覚悟して、まずはボールを確保しようとしているか」など、パス攻撃をする全員が、このような気持ちで、なおかつ「お互いにミスを本当になくそうという覚悟でもって、常に練習をしているか」が必要である。
そしてその上に、「それでもミスが起こった時」その際に「ミスミスにしない方法はないか」「ミスをカバーして、キズを大きくしない方法はないか」まで、練習しておく必要があるのである。・・・(ブログ名:横井章の魅力あるラグビー)