一年生の「ザ・ゴール」
今年の合宿は小学生の自覚が芽生える通過儀礼であり、幼年の時とは違った厳しさ、仲間との絆の深まりを感じる「初めてのおつかい」のような機会です。魚つかみや山登り、そうめん流しをイメージして山に登った生徒が全く違う景色を見てどれだけ成長したか、ここに少しだけ記録しておこうと思います。
初日宿に到着後の午後練には雨天の中、2列になって1キロ弱の砂利道「通学路」を歩くという洗礼に迎えられました。誰一人「行くのいやや」という生徒も出ず、1面(ゲーム機)はクリアー。高原の緩やかな坂道を通学途上、コーチは10年前にベストセラーとなった経営書の「ザ・ゴール」でのハイキングのエピソードを思い出していました。
このハイキングメタファと呼ばれる例え話はこうです。生徒22人は今、2列でハイキングをしています。道が細いため2列になってゴールを目指しています。ここで普通に歩いていれば、列は次第に縦長になっていきます。案の定、最初はラグビー場のゴールポストの幅程度の隊列が徐々に20メートル、30メートルとなっていきました。理由はこうです。22人にはそれぞれ歩く速さがあり、1人の中の速さも時間によって変動します。今ひとりの生徒が体調万全で1時間に8km歩ける力を持っているとしても、その前の人が体調不良で1時間に5kmしか歩けなかったら、結局速く歩ける生徒も1時間5kmのペースで歩かざるをえません。つまり歩く速さが変動して、速くなったとしても結局は前の人の速さに制限されてしまうというわけです。
これをラグビーという多人数で行うスポーツに当てはめてみると、メンバーがどれだけ縦長になろうが、チームの目指すゴール(大阪府スクール大会優勝など)では、全員がいなければならないということでしょう。つまり、所謂「ボトルネック」となっている要因を見つけ出し、改善をしなければ、目指すゴールは遠のくばかりではないのかと。
ラグビーのチームマネージメントでも、このボトルネックがどこにあるのかを考える必要があるのではないか。通学路でのふとした思いをぼんやり持って、2日目、3日目の練習試合に臨みました。
試合は両日とも対2年生チーム戦・幼年チーム戦各2試合でした。初対戦では、2年生チームには前週の練習参加者の中でタックルに強みを持つメンバー10人で、幼年には初戦の頑張り次第で翌日の2年生戦にトスアップできるメンバー12人でそれぞれ臨み、4戦全勝というかたちで初陣を飾ることができました。翌日の2年生戦に向けた夜のミーティングで幼年のメンバーから4人を新たに追加した布陣を発表し、生徒に心の準備をさせました。前日の結果から必ずやベストメンバーを投入し、生徒も1年生ごときに負けてたまるか精神で本気のバトルとなることは明らかです。コーチは、か弱き一年生を激戦区に送り込むような心境で翌日を迎えました。
翌日(日曜日)午後の1試合目は予想通り、凄絶を極めた戦いとなりました。前半は両者譲らず1:1のイーブン。後半は防戦一方の展開となる中、前日指名した新主将のS10がキャプテンの自覚のもと、モールで泣きながら何メートルも押しこむ姿や、炎のタックルマンT18の自陣ゴール前で敵の隼を足首で仕留めた追いタックルで流れを変え4:1の勝利。しかし、T18は大人顔負けの激しいヒットで前頭部を痛打、一夜で闘将に豹変したキャプテンも激しい攻防で力尽き両者リタイア。将軍不在の戦いに劣勢は火を見るより明らかの2試合目では「全員野球」の総力戦に作戦変更。全員が総力をあげて戦っているさなかハイキングメタファのことに思いいたりました。エースに頼るだけのチームは堅牢に見えて実は脆い。どんな局面でも試合の流れを変える選手が金太郎飴のように飛び出すチームを作らないと本当の強いチームにはなれないということを。この試合では、金太郎飴の顔が少し垣間見えた事が大きな収穫でした。
この合宿でも8試合それぞれのマンオブザマッチを選定し、夜のミーティングで表彰式を行いました。受賞者と授賞理由は以下の通り。
幼年戦1試合目:S1、練習で難しいドリルでもそつなくこなす生徒です。これまで試合でなかなか活躍の場面に恵まれなかったものの、この合宿で開化。翌日の2年生戦に合流
幼年戦2試合目:Y3、前週キャプテンに指名され気持を高めての試合でトライ、タックルでチームに多大な貢献。彼も翌日の2年生戦に合流
幼年戦3試合目:Y17、西宮戦で走ることの喜びを知った彼は、この日も数え切れないほどトライを量産しただけでなく、7つのタックルでチームをピンチから救いました
幼年戦4試合目:J22、待ちに待った初受賞。大柄な体格を活かした自分のプレーだけでなく、キャプテンとしてチームメイトを気遣う行動・言動が随所に見られました
2年戦1試合目:S14、こちらも待ちに待った初受賞。小柄な身体のどこにそんなガッツがあるのか不思議なくらいの頑張り屋さん。相手の独走を許せばゼロ封ができなかったところで、指先で止め、ゲームの流れを変えました
2年戦2試合目:S10、彼も後半ベストメンバーで来た相手にひるむことなく、果敢にタックルを敢行。鳥肌の立つ気持ちのこもったタックルで大きな相手をラインに押し出しました。翌日のキャプテンに指名
2年戦3試合目:T18、前述の通りタックルはもとより、合宿で走力をつけトライも量産しました
2年戦4試合目:S6、この合宿で最も成長した生徒の一人。強い相手に対して大外で抜き切る勇気・気迫が現れました
この他合宿特別賞として、コーチに言われるわけでもなくラダーを黙々と練習するなどうまくなりたいという気持が誰よりも出ていたT2に「マンオブザトレーニング」、ステップの練習で俊足の相手を3度連続かわすことができたT8に「マンオブザステップ」の表彰をしました。
彼ら以外にも、今日の体力測定(30M走、ジグザグ走、ベースランニング)で前回記録を大きく上回ったなでしこK16、R27、K12、やタックルに成長が見られたR15・R21など褒め倒したいくらいの生徒が沢山いました。このチームにボトルネック無しと言われる日が来ることを願います。
お休みタイムにも昼寝もせず枕投げ(ビーズが部屋中撒けて掃除が難儀しました)、異種格闘技に興じた生徒でしたが、6人の留学生(フィジーのマラカイ君、ソロモン諸島のネルソン君、ケニアのエリック君・シェリーさん、ブラジルのタレス君、スペインのプチュ・ビクター君)にそれぞれラグビーボールの絵らしきものと名前を書き込んだ色紙を汗だくで作成し、感謝のしるしとして閉村式の前に手渡しました。こちらの国際交流は将来必ず役に立つことがあるでしょう。
さあ、9月はテストマッチの茨木戦。今度はどんな金太郎飴が飛び出すか楽しみです。

