四年生になる君たちに贈る『銀二貫』

六年生の卒業試合に相応しい好天に恵まれた修了式を迎えることができ、この一年間の様々な異常気象による辛い記憶もどこかに吹き飛びました。それでも思い起こせば、生徒たちは尋常でない猛暑や寒気団をよく耐えて一年間頑張ったものです。うち4人は一度も練習・試合を休まずスクールに登校し続けたことは立派。なんと2人は2年連続皆勤賞受賞です。時には足を引きずりながら現れる日もありながら、弱気は見せず、全力で練習に取り組んでいた生徒もいました。その生徒は普段ラグビーノートを提出しないのですが、一年の締めくくりとして持って来てくれたのでしょう。親子間の往復書簡のような分厚いノートには、毎週の練習内容はもとより、自らの考えが丁寧に書かれていました。感無量の一言で他にコーチとしてコメントする言葉が見当たりませんでした。

中には、一回お休みの生徒も何人かいて、賞がないのは酷でした。次回に再挑戦と言ってあげたかったところですが、皆勤賞はこれにて終了。お小遣い財政が破綻したわけではないのですが、来年度からは「自分で考える」をテーマに新たなステージにステップアップするために、練習に参加した都度、ノートを提出し続けた生徒を表彰することとしました。病欠や行事で休んでも翌週に提出すれば、皆勤賞候補のままです。ただし、必ず、今日の目標など一文でもいいので記載することが条件です。自分で考えたことであれば何でもOK。文字でなくても図や絵でも表現したいカタチであれば大歓迎です。内容によっては特別賞も用意したいと思います。

そしてもう一つ廃止することを生徒には伝えました。それはMan of the Match。これまでの三年間はまず個を伸ばすことを主眼としました。個人個人がモチベーションを高めるにはどうしたらよいかを考え、世界ではよく行われているMOM表彰制度を導入しました。しかし、これからは伸ばした個をひとつに束ねることが重要になります。チームが自分に何をしてくれるのかではなく、チームのために自分が何をするのかを考える。この意識改革を進めるべく、MOMに代わって、ビー玉に一本化します。チームへの貢献に応じてボトルにビー玉を入れ、一杯にした生徒がボトルを宝物にして、またゼロから増やしていきます。生徒は思ったほどがっかりはせず、仲間から信頼されることが勲章だと説明して納得したようです。

今日は、33人分の世界のコイン99枚を用意して出席者28名にプレゼントしました。欧州はドイツのマルク、ロシアのルーブル(補助単位は『罪と罰』でお馴染のコペイカ)、アフリカはモロッコのディルハム、中東はアラブ首長国連邦のUAEディルハム、東南アジアはタイのバーツ、マレーシアのリンギット、東アジアは韓国のウォン、豪州のドル、北米はカナダドル、メキシコのペソ、そしてオリンピックまであと2年となった南米はブラジルのレアル。S25が欲しいと言っていたビットコインは用意できなかったけど、これで五大陸で流通していた通貨が33人の誰かのところに点在することになりました。彼らには世界を舞台に大きく羽ばたいて欲しいと願って止みません。

99枚の通貨はコーチにとっての『銀二貫』なのです。銀二貫は33両に値するほど価値のある江戸時代のお金です。33人にそれぞれ1両ずつ渡したことになります。この大金を幾度も消失した天満宮の再建のために寄進しようとした大阪商人がいました。何年もかけて貯蓄し、さあ寄進しようとする度に、別のもっと大事な使途が巡ってくる。苦渋の選択の末、寄進が何十年も引き伸ばされるのですが、最後は「ええ買い物したなあ」と寄進が成就するおとぎ話のように、今全部贈らなくとも、小出しにMOMを贈ったらええやないかという思いを敢えて封印し、六年生の最後に「ええチームになったなあ」と言われるように、ゼロから再出発をしたいと思います。(この小説をお読みでないと何のことかわからないので、来月から始まる同名のNHKドラマをご覧ください。この本の価値のあるもう一つの点は、やり遂げると決めた目標を最後まで決してあきらめないことの大切さだと思います。四年生にも読める本なので、ぜひ薦めたい)

「なあ、松吉。一里の道は一歩ではいかれへん。けんど一歩一歩、弛(たゆ)まんと歩き続けたら、必ず一里先に辿り着ける。お前はんは、もう歩き出したんや。転んだなら立ち上がったらええ。簡単に諦めたらあかんで」(高田郁著『銀二貫』)